
CREATOR

- CREATOR INTERVIEW 04
- 杉本 桂二郎
- 丸五ウエルネス推進部 マネージャー
- 岡山の地下足袋と福岡の久留米絣、
伝統を大切にしながら、新しい一歩をともに
岡山県で100年以上つくり続けてきた “足袋”のシューズを通して、日本各地の魅力的な生地を紹介するプロジェクト「SANCHI(さんち)」を展開する、丸五の杉本桂次郎さん。その第三弾として行ったのは、久留米絣に着目した、池田絣工房とのコラボレーション。久留米絣を選んだ理由、そして「SANCHI」に懸ける想いをうかがいました。

倉敷に根付いた地下足袋文化を現代につなぐ
―1919年の創立当時から地下足袋をつくり続けているということですが、実は池田絣工房の創業も同じ年なんです。当時は大正時代、古き良き日本文化とモダンな西洋文化が混ざりあって発展していた頃です。丸五はどのようにして地下足袋の事業を始めたのでしょうか?
杉本さん:
岡山県倉敷市、徳島県鳴門市、埼玉県行田市が足袋の三大産地といわれていますが、地下足袋が生まれる以前、足袋といえば「座敷足袋」や「岡足袋」と呼ばれる、室内で履くものでした。そこに、加工した人力車のタイヤを縫い付けて外履きができるようにしたのが丸五の事業の始まりです。
倉敷で培われた足袋の製造技術は、学生服や軍服の製造に生かされていったほか、その流れで児島の地に国産ジーンズが生まれることになって、いわゆる“岡山デニム”にもつながっていくわけです。丸五では、ゴムの加工技術を生かして「万年軍手」という日本初のゴム引手袋を生み出したり、自動車用のゴム製パーツの製造を拡大したりしながら、その間もずっと地下足袋をつくり続け、進化させていきました。
―100年以上にわたって綿々とこの倉敷で地下足袋づくりを続けてきたんですね。現在は主な事業の展開は?
地下足袋として主に製造しているのは工事現場や農作業で使われる業務用のものです。加えて、実はお祭り用としてのニーズも高いんですよ。御輿を担いだり踊ったりするときに地下足袋を履いているでしょう。もともとは座敷足袋が使われていたんですが、足裏を痛めてしまったり、夏場は地面が熱くなっていたりするので、底にゴムを貼り付けた地下足袋がだんだん普及していったんです。今ではエアークッション入りのものもあるんですよ。

そういった背景もあり、1990年代には中国の遼寧省に自社工場を設立して生産を拡大しました。その反面、国内の製造技術が途絶えてしまうのではないかと危機感を抱いたことから、2012年に国内の生産ラインを再稼働することになったんです。これを機に、地下足袋の技術と特徴を生かした足袋シューズなど新しいプロダクトの開発もスタートしました。履くと足の指が分かれることによる、健康面のメリットにも着目して。

2021年にはウェルネス推進部も発足して、僕は今は足袋シューズの企画開発を担っています。企画開発は常にどのようなものが好まれるかを考え悩むこともありますから、本当にいろいろな人に会ってお話をうかがうんです。その出会いからアイデアが生まれたりもして、そういったものを商品企画に生かしたりしていますね。
―池田絣工房とコラボレーションした、日本各地の生地を紹介するプロジェクト「SANCHI(さんち)」も、そういった流れから生まれたものなんですね。どのように始まったプロジェクトなのでしょうか?
「SANCHI」ではさまざまな地域の魅力的な生地を使って、足袋型シューズ「tabiRela」のプレミアムモデルをつくっています。そこには定番モデルの限定商品をつくりたいというマーケティング的な狙いもありますが、まだ日本に伝統的な生地が残っているうちに少しでも触れてもらいたいという思いがあるんです。SANCHIシリーズの第一弾では、福島県の会津木綿に着目しました。ご一緒させていただいた工場も120年というとても長い歴史があって、僕が抱いていた会津木綿のイメージを覆すような深みがあったんですよ。それがプロジェクトの始まりです。

そして、そもそも私たちがカジュアルシューズをつくり始めたのは、丸五のある土地自体が、「倉敷デニム」や「倉敷帆布」などの伝統的な生地の産地だから。地元だけではない、さまざまな地域の生地で足袋シューズをつくれたらと考えて、日本各地に目を向けるようになったんです。池田絣工房さんとの出会いも、そのリサーチの中で。きっかけは「PASS THE BATON MARKET」というイベントでしたね。
―企業やブランドの規格外品やデッドストックアイテムを集めた蚤の市イベントですね。
はい。僕がその運営会社の社長と知り合いで、丸五は年に1回ほど出展しているんです。すごくおしゃれなアイテムばかりが並ぶ中に、なぜかポツンと地下足袋メーカーがいるという不思議な状況で(笑)。そのイベントの展示で池田絣工房さんの記事を拝見しました。実は、SANCHIプロジェクトでは久留米絣はすでに候補のひとつではあったんです。でも、世の中に出回っている色鮮やかな絣にはそれほど惹かれなくて。
ところが池田絣工房さんは、伝統的な柄を前面に出してプロダクトをつくられていて、しかも手織りだと聞いて、本当に驚きました。ちょっとほかにはあんまりないんじゃないかと感じて、お声がけさせていただきました。それで生まれたのが、SANCHIシリーズの第三弾です。
シューズってサイズに合わせて展開数がどうしても多くなりますから、ずっと売れ残っているサイズも出てくるものなんです。でも、この第三弾は人気で、すぐに欠品になりました。とくに売れ行きが良かったのは、「唐草」モデルですね。一般的には唐草模様というと風呂敷の柄をイメージしますから、ちょっとアクが強いのかなと思っていたんです。でも、実際に履いてみるとコーディネートに合わせやすい。伝統的な柄を濃淡だけで表現していて、バランスがいいんです。発見でしたね。

岡山と福岡、ふたつの産地の出会いが生んだもの
―SANCHIシリーズでは、アッパー素材に伝統的な生地を用いています。その第三弾として久留米絣を使って製品を開発する中で、どのような生地だと感じましたか?
靴の特性として気にしたのは色移りでしょうか。とくに丸五はワークシューズも手がけているので、メーカーとしての品質基準が厳しいんですよね。色落ちのしにくさ、いわゆる染色堅牢度についてはとくに注意をして、ご相談させていただきながら製品化を進めました。
あと、実際に履いてみて感じたのは耐久性ですね。足袋は軽さなどのメリットがある反面、履き続ければどうしても摩耗していきます。足袋の中では足が常に動いていますから、たとえば糊付けした生地はやや硬くなりますが、そこが擦れたりはするんですよ。その点で久留米絣は丈夫だなと思いました。この丈夫さって、糸が太ければいいという話でもないんですよね。
久留米絣だと足が動いても傷みが少ないのは、伸縮性があるということなのだと思います。織るときに糸に無理をさせていないというか、テンションを掛けすぎないからではないでしょうか。履いていてもわからないくらいの差ですが、そこが大きいと思います。実際にお客様にも好評で、通常モデルを愛用してくださっている方が価格を厭わず「これはいい」と購入していただいたりして、久留米絣の人気の高さを実感しましたね。
―おっしゃるとおりで、久留米絣はほかの生地と比べて、ゆったりとしたテンションで織られています。杉本さんは実際に、福岡にある機織り工房も訪れたことがありますよね。
はい、SANCHIプロジェクトでご一緒したときにうかがいました。福岡はいいところですよね。空が広くて、気持ち良かった。一泊二日で行きましたが、もっと滞在していたかったです。ほとんど高低差がなくて空が広いのは岡山県も同じなんです。だいぶ減ってはきましたけど、昔から田んぼが広がっていて、その中にポツリポツリと工場があって。

―福岡も岡山も、人口減少や事業承継などいろいろな地域課題がありますが、その状況の中でどんなことをやっていきたいですか?
丸五のシューズは、歴史を知らない人からは足袋型である理由が「デザインありき」と思われがちなんです。でも私は、地下足袋って日本を代表するコンフォートシューズだと思っているんですよね。僕自身もほとんど意識していなかったんですが、靴の中で足の指が固まっている人がすごく多いんです。指がしっかり開いていれば、足そのものが持っているクッション性が働くんですよ。でも、指が固まっていることで足本来の機能が失われて、クッション性をシューズの機能で補うことになる。そうすると今度は、その負担が膝や腰に影響を及ぼします。
高齢の方では、足の指が固まっていることで踏ん張りが効かなくなって転倒し、そのまま寝たきりになってしまうというケースも多いんです。まさに僕の祖母がそうでした。そういった問題が起きているにもかかわらず、あまり有効な対策方法が打たれていなかったりする。仮説ではありますが、足指が開き、踏ん張りが効くことでバランス調整がしやすくなり、結果として転倒リスクの軽減につながると私たちは考えています。そういう、人間の本来の機能を生かしたものづくりやサポートをしていきたいですね。
―まさに“足元から変わる”ということですね。実際に履いてみると、気持ちがホッとするような感じがします。子どもにも履かせたくなりました。
今の子ども用の靴はすごくよくできているんですよ。地面ではなくクッションの上を走っているような感じです。でも子どもって、公園で遊んでいるとパッと靴を脱いで駆け出したりしますよね。きっと彼らは裸足のほうが走りやすいんだと思います。親からすると「危ないから靴を履きなさい」って言いたくなりますけど、逆に靴を履いているよりも裸足のほうが転びにくい子もいたりしますし。
大人は働いたり通勤したりする時間が多いですが、かといって仕事で足袋シューズを履くわけにはいかないという人も多いでしょう。レザー製品は2、3か月待ちになっているほど人気ですし、先日はクラウドファンディングで「TABIN」というモデルの販売を始めたんです。外側から見ると普通のシンプルなスニーカーなんですが、靴の中は足袋シューズと同じ構造になっている。ビジネスユースとしても足袋シューズの効果を感じてもらえたらと思って。ここにも培ってきた技術はすごく生かされていますね

世界で注目を集めつつある、日本の地下足袋文化
―この倉敷の本社に併設された「KOYAYA」、倉敷美観地区にある「MARUGO KURASHIKI」、東京・京橋の「MARUGO TOKYO」と、3つの直営店を構えていますよね。今後はどのような展開を考えているのでしょうか?
これからは海外にも展開していこうと考えていて、今はまさにその準備中というところですね。というのも海外のお客様が増えていて、たとえば京橋の「MARUGO TOKYO」はインバウンド客で行列になっているんです。人気ラーメン店かっていうくらいに(笑)。東京駅から歩いて15分というアクセスがいいとは言えない立地なのに、そこを目掛けて来てくださっているんですよね。オンラインショップのアクセスも3割以上が国外からです。地下足袋は海外から注目されている日本の分野のひとつなのかなと思います。
一般的に靴の製造では、「ラスト」という木製や金属製の足形を使います。服をつくるときの型紙のようなものですね。僕らは地下足袋専用のラストでシューズをつくっていますが、それは長い地下足袋づくりの蓄積が生かされた、足指が自然に収まる形状になっています。でも、海外のメーカーにはそれがありません。先が丸い普通のラストをベースにせざるを得ないから、割れ目の位置が異なっていて、足指が広げにくかったり、履いていて痛くなったりする。僕らは地下足袋専用のラストを使っているからこそ、快適なシューズがつくれるんです。

―海外からのニーズはやはり増えているんですね。池田絣工房も同じで、いろいろな国からお客様が工房を訪れます。実際に、足袋シューズはどのようにつくられているんですか?
たとえば、ラストに生地を被せてシューズの形に折り込んでいく工程を「吊り込み」といって、一般的なメーカーでは機械化されているのですが、丸五ではすべて職人が手作業で行っています。素材の状態も一つひとつ異なりますし、立体的な形状なので機械より手のほうがきれいに仕上がる。経験がものをいう世界で、ちょっとやそっと知っているだけではできないような作業ばかり。本当に昔ながらのつくり方をそのまま生かしています。
最近はレザーの需要が伸びていて、縫製の工房を革製に特化したつくりにもしています。というのも、丸五は昔からレザー製の地下足袋をつくっていたわけではないんです。僕が入社した頃にはまだレザー製品は扱っていなかった。でもその前からずっと、職人たちが地下足袋づくりの技術と経験を生かして、試行錯誤を繰り返していたんですよね。今ではレザー製品は予約注文の状態になるほどで、ほかには「コッペリアリリー」というパンプスタイプのモデルが人気ですね。

―ほとんどの工程が熟練の職人の手作業によって行われている。すごいことですね。
ちなみに、職人の話で言うと、明治・大正・昭和の時代をオリンピックを軸に描く大河ドラマがありましたよね。その中で足袋が重要な役割を果たすんですが、実は劇中に登場する足袋を丸五でつくらせていただきました。そして、その流れで丸五の職人が役者の方に演技指導もすることになったんですよ。ウチの名前は劇中では出ていないんですけどね(笑)。
日本各地に存在する、気になる織物たち
―「SANCHI」プロジェクトは、これからどう進めていくのでしょうか。
第一弾は福島県の会津木綿、第二弾は徳島県の阿波しじら織り、そして第三弾が池田絣工房さんの久留米絣。昨年は第四段として三重県の伊勢木綿のモデルをリリースしました。次はどうしようかなと考えているところですね。久留米絣以外にも、日本のそれぞれの場所で受け継がれている生地はたくさんありますよね。ただ、どうしても柄のパターンが似ていると言えば似ていますから、次は織り自体に特徴があるようなものがいいかなと思っています。たとえば、兵庫県の播州織は気になっていますね。
あるいは、SANCHIシリーズは限定モデルとして販売していますが、池田絣工房さんの第三弾も含めて、これまでのモデルが欲しいというという声があれば、人気があったものをピックアップして再販する企画も考えられるかなと思っています。
―次の第五弾、どうなるのか楽しみです。久留米絣も足袋シューズも暮らしの中にあるものという共通点があると思いますが、池田絣工房とのコラボレーションは考えていますか?
僕の印象では、久留米絣はだんだんカラフルな世界観になってきていると思います。池田絣工房さんのようなスタンダードな古典的な柄は、逆に今はあまりないですよね。第二弾の阿波しじら織りも本藍で染めた糸を使った生地ですが、藍の生地は反応がいいんです。池田絣工房さんにお声がけしたのは、その流れもあってのことでした。やっぱり藍っていうのはまたちょっとやってみたいですね。
―藍染で手織りというのは、池田絣工房にとっても大切にしているところですね。
池田絣工房では織手や染手の職人が増えているとおっしゃっていましたね。こちらでも、しじら織りや、藍染で使う「すくも」という染料の産地でもある徳島で修行を積んで、岡山で独立するという織手さんや染手さんが多いです。福岡と岡山は、どこかリンクするところがあるのかもしれませんね。それに、SANCHIプロジェクトでご一緒したとき、工房におじゃまする道中に福岡の中心部を車で通ったんですが、あらゆるものが密集して凝縮している感じが住みやすそうだなと。

PROFILE
- 杉本 桂二郎KEIJIRO SUGIMOTO
- 丸五ウエルネス推進部 マネージャー
- 1983年生まれ。染色会社へ就職後、2009年に丸五入社。
安全靴の品質・設計を経て2021年にウェルネス推進部企画設計を担当、現在は企画と製造部門のマネージャーを務める。



